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人身売買、二重婚、売春斡旋、すべては家族のため『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』

人身売買、二重婚、売春斡旋、すべては家族のため『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』の画像1
北朝鮮を脱北後、中国の農村に外人妻として売られたマダム・ベー。彼女自身も闇ブローカーとして暗躍する。
 堕ちていく女は、劇映画としてはとても魅力的な題材だ。社会のシステムから転げ落ちていくことで、虚飾をはぎ取られ、ひとりの女としての生々しい素顔がさらけ出されていく。キム・ギドク監督の『悪い男』(04)や園子温監督の『恋の罪』(11)のヒロインは、堕ちるところまで堕ち、聖女のような輝きを放つことになる。だが、女優が演じる劇映画ではなく、現実世界を切り取ってみせるドキュメンタリーの場合はどうだろうか? 韓国とフランスとの合作ドキュメンタリー映画『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』は生きていくため、家族を食べさせるためなら、法を破り、命を危険にさらすことも厭わない、平凡なひとりの主婦の変身ぶりを追いかけていく。  ドキュメンタリー映画の醍醐味は、シナリオのない意外性のあるストーリー展開にある。『マダム・ベー』はカメラを回している韓国人監督ユン・ジェホすら予測できない、驚愕のゴールが待ち受けている。主人公となるマダム・ベーは、「えっ、この人がヒロイン?」と思うほど垢抜けないオバさんなのだが、我々には到底マネできない決断力と行動力を発揮し、ユン・ジェホ監督に「私を撮りなさい」と告げる。  本作の序盤は、まず中国の寒村から始まる。北朝鮮出身の主婦マダム・ベー(仮名)は10年前にここへ売られてきた。北朝鮮で夫、2人の息子と一緒に暮らしていたが、生活苦から脱北して1年間限定のつもりで中国へ出稼ぎに向かった。ところが鴨緑江を渡って着いた中国の村で、「仕事があるよ」と騙されて遠く離れた農村へ外人妻として売り飛ばされてしまう。プレス資料によると、20~24歳の女性は日本円で約11万円、25~30歳は8万円、30歳以上だと5万円で売買されているらしい。マダム・ベーは当時37歳だったから、わずか5万円。安い……。  マダム・ベーが嫁として売られた中国の農家は見るからにビンボーそうな、中国夫・義父・義母との共同生活。マダム・ベーは腹を括って、ここでお金を稼いでから、帰郷することに決める。だが、働けど働けど、生活は楽にはならず。マダム・ベーはカメラに向かって告白する。「脱北者は身分証がないから、働いても安い。だから悪いことにも手を出すようになる」と。  マダム・ベーは自分と同じような脱北者たちを中国経由で韓国へ送り出す手引きをする闇ブローカーとしてお金を稼ぎ、また北朝鮮で製造された覚醒剤の売買にも手を染めたと語る。脱北してきた若い女性たちをカラオケボックスに派遣して、性サービスをさせる女衒業にも乗り出す。北朝鮮から売られてきた家族想いの平凡な主婦だったマダム・ベーが、ギラギラと生命力をたぎらせるヤリ手ババアへと覚醒していく。欲望まみれのマダム・ベーには、不幸な過去を背負った弱々しい影はみじんも感じられない。
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中国夫と義母。彼らにしてみれば、人身売買は犯罪ではなく「お金を払った上に脱北者を受け入れた」行為だった。
 マダム・ベーの中国の農村での生活だが、貧しいながらマダム・ベーは中国夫や義母から気遣われていることが分かる。マダム・ベーが闇ブローカー業に精を出している間、中国夫は「オヤジ、お前はもっと働け」と実の父をどやしつける。義母からも「嫁が嫌がるから、室内でタバコを吸うんじゃないよ」と責められる。義父は脱北妻よりも立場が弱い。カメラに向かって話すシワシワ顔の義母の言葉が泣かせる。「息子は4人いて、3人には中国人の嫁を見つけることができたが、この子には見つけることができなかった」。お金で買われて連れてこられた中国の農村だったが、マダム・ベーは人間扱いされた生活を送っていた。北朝鮮と中国に2つの家族を持つ、マダム・ベーの奇妙な二重生活をカメラは収める。  中盤以降はまるで予測できない展開に。マダム・ベーはやはり北朝鮮に残してきた2人の息子のことが気になる。母子一緒に暮らすため、まずは息子たちに北朝鮮から韓国へと脱北するよう指示を出す。さらにはマダム・ベー自身が韓国を目指すことに。親身に接してくれた中国夫と義母に事情を話すマダム・ベー。脱北者は国籍がないから、今のままでは中国夫と正式に結婚することができない。だから一度韓国へ行き、そこで脱北者として認められれば韓国籍が手に入る。そうすれば中国夫の正式な嫁になれると。こんな口約束を誰が信じるんだろうと思っていたら、中国夫と義母はあっさりOKした!! 彼らは人を疑うことを知らないのか、それともマダム・ベーのことを心から信頼しているのか……。  マダム・ベーが進む脱北ルートが壮大だ。中国大陸をずんずんと南下して、ラオスやタイの国境を越えるというもの。そしてタイから空路もしくは海路で韓国を目指す。『西遊記』の三蔵法師も、『深夜特急』の沢木耕太郎もびっくりの“シルクロード”ならぬ“脱北ロード”。しかもマダム・ベーは、同じように脱北してきた女性たち(中には子連れも)を伴ってのキャラバンを組む。なぜかカメラを持っていたユン・ジェホ監督も巻き込まれて、マダム・ベーたちと一緒にラオスの険しい山々を越え、タイの危険な“黄金の三角地帯”を潜り抜け、河を渡る超絶サバイバルツアーに挑む。フジテレビの『NONFIX』がいつのまにか『水曜スペシャル 川口探検隊』へとシフトチェンジ! ジェホ監督は一行についていくので精一杯で、カメラを回す余裕はほとんどない。
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韓国のソウルで実の息子と暮らすことになったマダム・ベー。多大な労力とお金を支払って手に入れた幸せだったが……。
 大冒険ツアーの結果、マダム・ベーはタイへの不法入国を果たし、目論みどおりにバンコクの難民支援センター経由で、韓国へ送られることに。韓国では国家情報院から北朝鮮のスパイでないかどうかの尋問を受けた後、念願叶ってソウルで息子たちと一緒に暮らすことになる。バンコクの難民支援センターで別れてから2年後、ジェホ監督はソウルでマダム・ベーと再会する。浄水器の清掃業をしている彼女は、ソウルにどこにでもいる生活に疲れきった主婦となっており、中国で闇ブローカーとして目をギラギラさせ、ラオスやタイの国境を命懸けで越えてきたマダム・ベーとは別人のようだった。息子たちと一緒に暮らすという夢を実現させ、電化製品に囲まれた豊かな生活を送るマダム・ベーだが、もはやあの猥雑さを感じさせる生命力の輝きはどこにもない。  ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』(02)は人生のドン底からいちばん美しかった時代へと時間を巻き戻してみせたが、マダム・ベーの場合は彼女の人生のピークは一体どこにあったのだろうか。彼女の人生は喜びと哀しみが複雑にマーブル状に入り交じっており、簡単には判別できない。物語の終盤、マダム・ベーはテレビ電話で、今も中国の農村で暮らす中国夫と会話を交わす。そのときの彼女は生活に疲れた退屈な主婦から、声を弾ませたひとりの女に戻っている。 (文=長野辰次)
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『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』 監督/ユン・ジェホ 撮影/ユン・ジェホ、タワン・アルン  配給/33BLOCKS 6月10日(土)より渋谷イメージフォーラムほか全国順次公開 (c)Zorba Production, Su:m http://www.mrsb-movie.com

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